『希望をはこぶ人』 老人のコトバが心にしみる1冊

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

君は、砂の上に腰を下して
イワシとソーセージを食べていると言ったね。

私は浜辺で海の景色を眺め
潮の香りを満喫しながらごちそうをいただいたよ。

喉が渇いている人にとって1杯の水は格別にうまい。
しかし、そうでない人にとっては無意味なものでしかない。
ジョーンズのコトバに、ボクは一度深い呼吸をした。
そして、ページをめくった。
さいごの238ページまでその手は止まらなかった。


『希望をはこぶ人』

著者:アンディ・アンドルーズ

出版社:ダイヤモンド社(2011年4月15日発売)

★★★★★


あらすじ

立て続けに両親を失い、一人ぼっちになった僕。人生を悲観し、自暴自棄になっていた23歳の僕の前に現れた一人の老人「ジョーンズ」。
「若者よ、明るいところで話そう」
そういって話し始めたジョーンズに少しづつ心を開く僕。
人生のどん底の今だからこそ「ものの見方を少し変えてみる」ことの大切さを説くジョーンズ。

彼の「コトバという種」は、心に芽を出し始め、やがて僕の人生は変わり始めた。
そして、それは僕だけではなかった。

自己啓発本が苦手な人にもオススメ

「不安や悲しみを感じたら物の見方を少しだけ変える」というのは自己啓発本には多く見られる表現です。このコトバは、そういった書籍では観念的で漠然とした表現になっていることが多く、結果的に「なんとなく心に残った」だけで終わってしまうことがあります。

この『希望をはこぶ人』は、ジョーンズと街の人々との会話から成り立つ物語ですから、まずわかりやすいんです。具体的に例を挙げて話すジョーンズのコトバは日常的でリアリティーがあります。

硬い表現で観念的なものや、若者受けをするようあえて軽い表現に終始したもの、宗教的なものなど自己啓発本にもさまざまありますが、どうもこのジャンルは苦手だなという人にもオススメできる1冊です。

種をまく人・ジョーンズ

主人公がたどりついた街ガルフコーストにあらわれたジョーンズという老人。街の人々が抱える問題にそっと寄り添って話し始めます。「物の見方を少しだけ変えればいい」と。

ジョーンズは会話を通して問題の本質を明らかにし、わかりやすい例え話を挙げながら問題解決のヒントを与えて去っていきます。

「五羽のカモメが防波堤にとまっている。
そのうちの1羽が飛び立つことを決意した。
残っているのは何羽だい?」

「四羽です」

「そうじゃない。五羽だよ。
飛び立とうと決意することと、実際に飛び立つことはまったく別物だからね」

大切なのはジョーンズが問題を解決したのではないということ。ジョーンズは人々のためにあちらこちらと奔走し、解決してあげることは決してしませんでした。困っている人の問題を解決してあげるというのは一見親切にも思える行動ですが、それは一過性のものでしかありません。次にまた困難に見舞われた時、その人はまたジョーンズを頼ることになるでしょう。

私は君に『小さなことにこだわれ』と言うためにここに来たんだ。なぜだかわかるかい? 人生全体を形づくっているのは、小さなことだからだよ。
君のような考えの人はたくさんいるが、そういう物の見方は歪んでいる。なぜなら、広い視野に立って物事を見ると言っておきながら、それが小さなことから成り立っていることを理解せず、小さなことをないがしろにしているからだよ。

大切なのは、ものごとの本質をとらえ、視点と発想を変え、行動することです。人は困難に直面している時、冷静になることは容易ではありません。そういった状況の中で、まずは本質を捉えることが大切です。ジョーンズは実例を挙げて本質を理解させます。そして視点と発想の転換の「コツ」を教え、去っていくのです。行動するのはあくまでも本人です。そして、問題を解決した時、人は「知恵という大きな財産」を得るのです。

絶望しているとき、何よりも必要なのはものの見方です。視点を変えると心が落ちつき、心が落ち着くと明晰に考えることができ、明晰に考えることができると新しいアイデアが浮かんできます。そのアイデアが答えをもたらすのです。

心と頭をつねに研ぎ澄ませておいてください。ものの見方は簡単に見つかる一方で、いともたやすく見失ってしまうものでもあります。

だからこそ、ジョーンズは果実を与えるのではなく人々の心に種を蒔いたのです。水をやり、肥料を与え、収穫するのは本人。収穫の喜びを知った人は、誰かの心に種をまくでしょう。そうやってジョーンズはいつでも人々に寄り添い続けるのです。

ジョーンズの話術

ジョーンズは様々な偉人の話をします。ジョージ・ワシントン・カーバー、ベンジャミン・フランクリン、ウィンストン・チャーチルなどの実際のエピソードを交え、ものの見方を「概念」から「方法」へと現実味をもたせてくれます。

彼の与えた「知恵」は豊富な「知識」によって成り立っています。説得力の裏にはそういった知の積み重ねがあったのだと思います。

人が学び続ける本質がそこにあるのだと強く感じました。

著者・アンディ・アンドルーズさんについて

この作品のストーリーテラーである「僕」は著者自身でもあります。両親を失い、ホームレス生活をしていたとき、ある老人との出会いをきっかけに自身の生活を改め、人生を再出発させます。やがて、コメディアンとして成功したのち、作家に転身しました。ニューヨーク・タイムズ紙で「アメリカで最も影響力のある人物の1人」にも選ばれ講演やテレビ出演も多いベストセラー作家です。

関連作品

本作には続編があります。
「希望をはこぶ人2」(2014)も併せて読みたいですね。

画像をクリックすると詳細ベージに移動できます。

今回ご紹介した書籍

画像をクリックすると詳細ベージに移動できます。


いかがでしたか?

『希望をはこぶ人』 今後もジョーンズに助けられるんでしょうね。

この書籍は2012年に購入したのですが、ずっと眠ったままでした。

その間いろいろなことがあり、引越しや大大大断捨離によっていろんなものと決別しました。書籍もたくさん手放しました。そして、わずかに残った数冊の中にこの本がありました。

なぜ、手元に残そうとしたのか自分でもわかりません。きっと、このタイミングで読むべきだったんだろうと今は思います。

この作品との出会いに心から感謝します。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた別の作品でお会いしましょう。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする