『裸足の1500マイル』|原題は『ウサギよけのフェンス』それが意味するものとは。

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1500マイル=2400キロメートル。

3人のアボリジニの少女が母親に会うために歩いた距離です。それは直線距離にして、北海道・宗谷岬から沖縄県・那覇市までの距離に相当します。


『裸足の1500マイル』

Rabbit-Proof Fence/2002/オーストラリア

★★★★☆(星4つ)

監督:フィリップ・ノイス

出演:エヴァーリン・サンピ/ローラ・モナガン/ディアナ・サンズペリー/ケネス・ブラナー

原作:ドリス・ピルキングトン


あらすじ

オーストラリアの先住民アボリジニに対する白人同化政策下で実際にあった逃亡劇を描いた作品。

アボリジニと白人の混血である3人の少女。故郷と家族から引き離され、白人と同等になるための法律により、英語やキリスト教などの教育を受ける。
ある日、少女たちは母親に会いたい一心で施設を逃げ出す。ウサギよけのフェンスをたどってひたすら荒野を歩きつづけた少女たち。迫りくる追跡人をかわしながら1500マイル(2400Km)もの道のりをひたすら歩き続けた感動的な実話。

作品の描かれた時代背景

この作品の舞台は1930年代のオーストラリア。

オーストラリア政府は、先住民であるアボリジニと入植者である白人との間に生まれた子供、混血児をその家族から隔離・収容し、白人社会に適応させるべく教育を行う施策を行っていました。

その政策の根底にあるのは、白人の傲慢さに起因する「救済」という考えです。

アボリジニ本来の生活、原始的で自然主義的なスタイルを白人は教養のないものと否定し、そこからの脱却を「救済」と呼びました。そして白人との混血児を隔離・教育し、白人文化に同化させる。このような考えがまかり通っている時代でした。

少女たちの「胸の内」

収容所に連れてこられたモリー、妹のデイジー、モリーの従妹であるグレイシーの3人は白人同化政策により収容施設での生活を余儀なくされます。しかし、ある日3人は施設を逃げ出します。

目的はただひとつ。

「お母さんに会いたい」

その願いが少女たちを突き動かしました。

どちらへ向かえばいいのかも分からない中、唯一の道しるべは「ウサギよけのフェンス」。母に会うためひたすらあるき続けた少女たち。

彼女たちの切実な願いに胸が締め付けられるようでした。

追跡人の「胸の内」

フェンスをたどって母のいる故郷をめざす3人ですが、その後ろには追跡人の姿が迫っていました。追跡人というのはアボリジニ保護局から差し向けられた「追手」です。

実はこの追跡人、少女たちと同じ「アボリジニ」なのです。

かつて少女たちと同じ思いをしているであろう追跡人は彼女たちの気持ちが痛いほど理解できるはず。「逃してやりたい」そう思ったでしょう。任務と本音との板挟みに良心の呵責はいかほどだったか、その複雑な胸中を想うと、とても心が苦しくなるシーンでした。。

追跡している表情にそれがにじみ出ていました。

アボリジニ保護局長の「胸の内」

オーストラリア政府の白人同化政策、それはいまの価値観で考えるととんでもない差別政策でしかありませんが、当時は本気でその政策は「救済」だと思っていたようです。

アボリジニ保護局長(ケネス・ブラナー)の言動を見ていると悪意はまったく感じられず、自分の「善意」に従って行動しています。

この差別政策を現場で指揮する立場の局長は悪役なのですが、そのようには描かれていないところに、この作品に「リアリティー」「奥の深さ」と1930年代当時の「思想の闇」を感じました。

逃げる人、追う人、かくまう人

母に会うため歩き続けるアボリジニの少女。連れ戻すべくその後を追う同族の追跡人。縮まる距離。絶体絶命のピンチの中、少女たちをかくまった人がいます。それもやはり同族のアボリジニでした。白人同化政策による教育を受けたアボリジニに少女は助けられます。

逃げる立場、追う立場、かくまう立場。おなじアボリジニという民族で様々な立場を描いたこの作品はその分断と間違った政策をあぶり出しました。

それは怒りをもって後世に伝えられるべき事実だと思います。この作品がその一翼を担うものだと確信しています。

しかし、その怒りの矛先はアボリジニ保護局長や追跡人ではありません。彼らは自分の思想に忠実であろうとし、職務をまっとうしようとしたに過ぎません。

その思想を正当化した背景に何があったのか?そこに目を向けなければなりません。それは一体何なのでしょうか?

わたしは「傲慢さ」があったのではないかと思っています。

そこに反省がない限り、いくら時代が変わろうと形を変えて「心の分断」が起きるでしょう。同じ歴史を繰り返さない、この時代の思想を過去の遺物とするために、この作品の存在価値は非常に高いものがあると思いました。


いかがでしたか?

映画『裸足の1500マイル』は色んな意味で胸が苦しくなる作品でした。

この作品の原題を日本語にすると「ウサギよけのフェンス」

このフェンスが象徴するものは、当時多くの白人が持っていたであろう「差別意識」。原住民をウサギのように見下しフェンスで囲ってしまう。それが白人同化政策です。

そしてもうひとつ「アボリジニの心の分断」。追跡人も少女をかくまった人もアボリジニでした。同じ民族で、逃げる立場、追う立場、かくまう立場。フェンスはそれら立場の違い、心の分断をも象徴しているように感じました。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

この作品との出会いに感謝します。

ではまた別の作品でお会いしましょう。


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